鍼灸院の開業方法

 鍼灸師は学校を卒業して、すぐに開業できるものではありません。私は卒業して間もなく開業した鍼灸院を見学する機会があり、いろいろと気付いたことがありますので、鍼灸院を開業するための基本的なことを学生諸君に教えておきたいと思います。

 まず、学校を卒業しただけでは開業できません。日本の鍼灸学校は、ツボの名前や位置、治療所の間取り、解剖、消毒方法などを教えるだけのものです。ですから具体的な病気の治療方法については教えません。そこで勉強会などがあるのです。

 ところで開業するには、どのように宣伝すればよいか? ツボの主治は? どのツボを組み合わせれば何の病気が治療できるか?ツボに治療作用を発揮させるには、どの角度で、どの深さ刺入すればよいか?そのときに患者の反応はどうなるのか? などの知識が必要です。

 まず開業するための前段階ですが、それは開業する前に、あらかたの疾病なら治せるようになっておくことが必要です。その力がない場合、二代目の院長ならばよいのですが、初代で開業しようとするのは困難です。

 ここで開業の対象にするのは、キチンと治せる技術のある鍼灸師です。
 治せる技術があれば自然に鍼灸院が繁盛するではないかと思われるかもしれませんが、それは雇われ鍼灸師の段階。自分で開業するには、治癒まで漕ぎ着ける口のうまさも必要です。また最初から患者が来るわけではありませんから、どうやってネズミ算式に患者を増やしたらよいかという方法も必要です。
 不良反応を説得するというのはオカシイかもしれませんが、鍼を筋肉へ刺入すると筋肉が緩むから鍼で治療できるのです。だから筋肉の萎縮が進み、例えば前屈みで歩くような段階になると、神経は筋肉による圧迫のひどさのために痛みを伝えなくなってしまいます。神経は、強く圧迫されすぎると刺激を伝えなくなって痛みを感じなくなるのですが、その圧迫が中途半端に緩めば、神経の感覚が復活して痛みを感じるようになってしまいます。これを鍼灸では冥眩反応と呼んでいます。つまり

 筋肉が収縮して緩まなくなる→神経が圧迫されて重怠さを感じる→神経が圧迫されるため、それが刺激となって筋肉が痙攣する→神経が筋肉で強く圧迫されて痛みを感じる→神経が痛みを感じてパルスを出す→痙攣した筋肉に収縮パルスが来る、痙攣した筋肉内の血管も圧迫され、血液循環が悪くなって筋肉が萎縮する→筋肉の萎縮がひどくなり、神経が強く圧迫されて伝導しなくなり、痺れて痛みを感じなくなる→ついには運動のパルスまで伝わらなくなって動かなくなる。

 こうしたパターンで痛みを感じなくなった重症患者は、刺鍼治療により中途半端に筋肉が緩んで、神経が復活するために痛みが発生してきます。鍼治療は、悪くなった順序を逆に辿るため、過去に痛みがひどかったが、現在は痛みが少ない状態のケースでは、過去の痛みが甦ってきます。こうしたケースは、重症の大腰筋萎縮で、腰が曲がりかけたり坐骨神経痛の患者さんで多いのです。この場合、私のように地域で治すと有名な人ならば、黙っていても患者さんは信用してくれますが、まったく知られていない人の場合ですと、鍼治療したら逆に痛みがひどくなったと文句を言われたり、患者がこなくなったりします。そうなると段階を少し戻っただけで、治癒までたどり着きませんから治らないという評判が立ってしまいます。そうした患者さんには、事前に院長が説明して不安を取り除いておきますが、評判も何もない新しい治療院では、すべて自分で処理しなければなりません。

 次に多いケースが、治療したところと別のところが痛くなってきたというケース。これは五十肩などに多いのです。右肩を治療してもらったら、左肩まで痛くなってきたと苦情の来るケース。これはもともと左右の五十肩だったのですが、右肩の痛みが強いために左肩の痛みに気付かなかったのです。ところが右肩の痛みが減ったために、左肩の痛みも感じられるようになったものです。これも患者さんは、悪化したのではないかと心配するので、キチンと対応せねばなりません。

 こうしたことをキチンと説明できてこそ、治癒するまで患者さんを通院させることができ、治った患者さんは知り合いを紹介してくれるのですが、対応が悪ければ、技術はあっても悪化させる鍼灸院という烙印を押されてしまいます。そうなったら説明の技術が身につくまで、あっちこっちを転々と移動しなければなりません。

 こうした開業方法は、一般的に師匠は教えてくれません。しかし患者さんを治さなければ自分の鍼灸院の評判に関わりますので、治療技術は教えてくれます。

 だから「どのように患者を呼ぶか?」の質問以外、具体的な治療方法は、師匠について学ぶことが一番です。ですから開業する前に中国へ留学して、治療技術が身につくまで勉強するのが早道です。一度開業してしまうと、部屋代から駐車場の料金の心配、また留学して帰っては0からの出発になりますので、開業してから師匠について勉強するのは困難になります。

 師匠を日本で捜すことは困難だと思われます。私も断られたので、中国へ留学しました。日本で師匠を捜すことが困難な理由は、弟子を持っても何のメリットもないことです。私は一人だけ弟子を持ちましたが、中国にも姐ちゃんの弟子がいます。彼女には、私の頚椎症を治してもらうため、頚や背中の刺鍼方法を教えただけで、本当の弟子とは言えません。そして日本の弟子ですが、これは主に、自分が脳卒中のような半身不随になったときに治療してもらう目的で育てたわけで、実際に弟子を育てると赤字になります。それは患者さんは、先生に治療してもらうために来たのであって、弟子に治療してもらうために来たのではないからです。だから先生に治療してもらえないと判ると来なくなるのです。しかし弟子がキチンと鍼を打てるようになったか確認するためには、弟子に治療させてみなければ判りません。それで弟子を取ると患者さんが来なくなるのです。

 まあとにかく留学したり、弟子にしてもらって治療技術を学びます。それで、ある程度の治療技術が身に着いて、患者さんを治せるようになったら開業します。

 開業にあたっては、最初は経費を安くするため自宅を改造して開業するのが最善です。それには二階を避け、できるだけバリアフリーにします。二階では、足の悪い患者さんや腰の悪い患者さんが来ません。エレベーターがあれば、その問題も解消します。
 一般にトイレは待合室の横に作れと言いますが、鍼灸院に来る患者さんで、トイレの近い人は意外と少ないものなのです。余裕があれば作る程度で結構です。うちの段差は10cmぐらいにしてあります。
 カーテンレールなどは自分で吊ります。カーテンレールはカーテン屋さんに行って注文しますが、普通の茶色のカーテンレールにしたほうが在庫もあるし安く上がります。カーブしたところには、カーブしたカーテンレールがあります。カーテンレールを切るときはカーテンレールを切る道具をカーテン屋さんから借ります。緊急の場合は、金鋸で切ります。カーテンレールは、手を上げて届く位置に吊ります。その理由は、あまり天井と密着していると圧迫感があるので、あるていど天井から離れていたほうがいいです。もう一つの理由は、カーテンが汚れたときに交換しやすいからです。高い位置では、踏み台を使わねばなりません。いくら背の高い人でも、手を伸ばした位置からカーテンの向う側を見ることは出来ません。カーテンは、床から30cmぐらいの距離にします。下から足が見えれば、患者さんがベッドに上ったことが判るし、下に何が落ちているか覗けるからです。もともと目隠しで、冷暖房目的でないからこれでいいのです。カーテンは、下を折り返して袋にし、つなぎ合わせて作りますが、これはミシンの調子とか難しいので、業者に頼んでもよいでしょう。青や緑系統がお勧めで、ピンクや赤系統は避けたほうがよいでしょう。何かイヤラシイ感じがします。マッサージするならピンクもいいですよ!カーテンレールは、ふつうは一本のレール吊りで吊りますが、これもホームセンターにあります。そして壁は、壁用のカーテンレール留めで留めます。ほとんどの壁は、コンクリートか石膏ボードなので、それ用のネジを使って留めます。コンクリートなら、最初にドリルで穴を開け、そこにプラスチックや鉛の管を差し込んで、それにネジを入れて留めます。石膏ボードなら、壁の向こうで広がって止まるタイプのネジを使って留めます。カーテンレール吊りが一本では、カーテンレールがブラブラします。壁などで固定されていればよいのですが、窓になって固定できなければ、最後の部分はもったいないですが3本のカーテン吊りで固定します。つまり一つのカーテン留めに3本のカーテン吊りを留めるのです。これでカーテンは安定します。
 次に床ですが、畳はベッドを乗せるのにふさわしくありません。そこでコンクリートパネルに角材を打ちつけます。コンクリートパネルというのは、コンクリートを流し込むための壁板ですが、早い話がブ厚いベニヤ、12mmのを使うとよいでしょう。その下に角材を置いて、長い釘かネジで留めます。こうして作ったスノコを畳の代わりに敷き詰めます。次に床の敷物を敷きますが、これは厚くなるほど高いので、薄いもので十分です。ベッドが上にあるので、思ったほど冷えないからです。厚いと値段も倍になります。まず床のシート選びです。これは壁も同じですが、大柄の図柄を避けます。それは何故かと言うと、大柄の図柄では、絵合わせするときのロスが大きいからです。ですから、できるだけ小間柄のシートを選びます。それならば多少模様がズレていても判りません。まず床貼り用の両面テープを30センチごとに平行にコンパネの上に貼り付けます。これを正方形にしてはなりません。正方形に区切ると空気が抜けなくなり、温めると膨らんでシートが破れます。ですから平行に貼って、空気の逃げ道を作ってやるのです。足りないため隣のシートとの接着面は、その重なる部分に両面テープを貼り付けて接着します。壁紙も同じですが、これをケチケチしてギリギリで貼り合わせてはなりません。そんなことをすれば必ず隙間ができます。5cmぐらい重ねて、その中央と思われる位置から鋭いカッターナイフを入れます。厚い定規を使って切ったほうがよいでしょう。二枚分のシートを重ねたところから切ります。そうして切った部分を取り除いて両面テープを剥がし、上から押さえ付ければ、両面テープでピッタリ合って、貼り合わせたところが目立たなくなります。これが床の貼り方です。カッターと電動ドリル、金槌と定規は必ず必要です。
 凝り症の人は、石膏ボードの壁まで壊して断熱材を入れたくなるでしょうが、西向きの部屋で無い限り、そこまでする必要はないでしょう。断熱剤は天井だけで十分です。治療室にする部屋は、東向きがよいようです。その理由は、太陽が東から昇るため、治療室が暖まりやすいからです。西向きは最悪です。午前中は部屋が暖まりにくいし、午後になって暖かくなりますが、夏は西日で大変です。
 これで床は貼れました。壁は、壁紙用の糊を使ってもよいのですが、一般には木工用ボンド、糊、水を混ぜて使います。これも重なる部分は、両面テープと違って糊を覆う部分がありませんから、両面テープで使ったクラフト紙を使います。廃物利用は嫌だという人は、接ぎ木用の幅広ビニールテープを貼って、重なり部分が糊と接着しないように、縦に貼りつけておきます。そして床と同じように、壁紙を貼り、切れ目を入れて剥がすときに一緒に剥がして接着します。これで外装は完成しました。
 ベッドは、一番安いものが二台あればよいです。余裕があれば、一台は穴開き昇降ベッドにしてもよいでしょう。ベッドの上には寝具用のスポンジを切って入れて、ベッドの硬さを調節します。そして布を買ってシーツを作ります。カーテンは防炎か難炎にします。この表示は、縫い付けなければ認められません。その表示に、また金がかかるのです。冬は寒いので、スポンジの上に小さな電気式毛布を敷きます。それから一番安いので結構ですから赤外線か遠赤が一台、フェイス枕、低い枕、高い枕、三角の膝枕、胸枕が必要です。部屋が広いと暖房や冷房の費用がかかり、効率が悪いのです。それに複数のベッドがあったからといって、本当に治療できるのは1時間に二人がいいところ。無理して3人ぐらいですから、3台以上のベッドがあっても稼働しません。ベッドは高さ60cm、幅60cmぐらいで、そこに45cmのワゴンが入りますから1m50の幅が必要です。そして最低オトークレーブと机、本棚の入るスペースが必要となります。四畳半ではベッドが2台しか置けませんから、最低でも八畳以上は必要です。断熱が必要なので、天井裏に入って黄色のグラスウールを敷きます。厚さ10cmのグラスウールをホームセンターなどで買ってきて敷きます。小さな布団のような感じですが、袋から出すと膨らみます。それを銀色した部分を上に向けて敷き詰めます。これで5割の暖房費は節約できるでしょう。

 待合室はカルテを書いてもらうぐらいにし、電話予約にして椅子は一つ、患者さんを待たせないようにしましょう。スペースがあれば、温泉などにあるマッサージ椅子を置いて自由に使ってもらいます。待合室と治療室が仕切られていない場合もありますが、実は仕切ったほうがよいのです。待合室など、何の意味もないと思われるでしょうが、実は環境変化を防いでいるのです。治療室は裸になるので、かなり高温に保たれています。そこに外から直接人が入れば、外気が侵入して寒いのです。ですが小さくとも待合室があるために、その温度変化がなくなるのです。ですから待合室は、潜水艦や宇宙船の気密室のようなもの、電話予約だけといえども絶対に必要なのです。

 次に暖房です。一般的に普及しているファンヒーターは便利ですが、それは排気ガスがでます。治療室は23度ぐらいの温度を保たねば、服を脱ぐときに寒いので、結構な温度が必要です。それをファンヒーターで保つと、かなり排気ガスが出て、患者さんから「鍼をしてもらったら頭痛がしてきた」とか「吐き気がしてきた」と苦情がきます。25000円ぐらいで熱交換器付きの換気扇もありますが、やはり温度を高くすると頭痛がします。それで少々高いのですが、外で燃やして湯を循環させるタイプ(富士通)とか、排気ガスの出ない暖房を付けることが重要です。こうした工事は、あとでやると患者さんがうるさくて迷惑なので開業する前に済ませます。どうしても予算の関係でファンヒーターしか駄目だと言われるのであれば、キッチリと断熱して結露を防ぎ、熱交換器付きの換気扇を付けることです。排気ガスは重いので下に溜るため下に付けたほうがよいのですが、理想的には上下に付けるとよいでしょう。ひつとでは徐々に頭が痛くなります。なおファンヒーターは数年するとファンにホコリが溜り、ファンが送風機の役目を果たさなくなるため、高温になって停止します。そのときは送風機の付いた四角い外ワクを外し、ファンを雑巾で拭いてやることが必要です。それでも状態が治らなかったら、燃焼して温める燃焼筒にホコリが詰まっているので、後ろから前から掃除せねばならず、少し難しくなります。

 次に必要なものは衛生設備です。治療室に水道を引きましょう。そしてオートクレーブも必要です。うちは使い捨てだから水道もオートクレーブはいらない!などと言ってはいけません。スペースがあれば紫外線消毒器などもあったほうが衛生的な印象を与えます。できれば水道に瞬間湯沸かしを付けましょう。患者さんは冷たい手で触られると、ヒヤッとします。そして鍼を刺す前、鍼を抜く前、鍼を抜いた後の3回は、必ず手を洗うようにします。鍼を刺す前に手を洗って、手についたバイ菌を洗い流してから刺鍼します。鍼を抜く時も同じです。そして鍼を抜いた後、患者さんの血が手に着いているかも知れないので洗い流します。「うちは奥に水道があるから」などと言ってはいけません。水道があることなど患者さんに判らないのです。患者さんは、そばで水道の音がしているから「いま手を洗っているんだ」と安心します。それに水道と患者さんの距離が離れていれば、その間に空気中から付着するバイ菌も多くなります。また患者さんが水道を使うこともあります。だから水道は、必ず治療室に設置します。患者さんに「ここは、手を洗ってるんだろうか?」とか、「前の人の血が、鍼に着いて自分の身体へ入るのではないだろうか?」などの不安を持たせてはなりません。

 以上の設備があり、脱衣篭とバスタオル、丸椅子があれば開業準備が完了です。

つぎに窓を断熱材の発砲スチロールで覆います。その厚さも1cm以上あったほうがよいのです。L字型のプラスチックを窓の枠に貼り付け、それをレールのようにして、発砲スチロールを窓の大きさに切って填め込むのです。こうして天井と窓を断熱材で密閉すれば、断熱効果が相当高まりますので、部屋を高温にしても問題が起きません。この発砲スチロール窓は開閉もできます。この窓をカーテンで覆えば、患者さんは普通の窓だと思います。なお発砲スチロールは太陽光線で劣化しますので、外側にはアルミホイルを貼ったほうがよいでしょう。
 これによって暖房費や冷房費を相当に安く上げることができます。

 鍼をするときには、時計やネックレスなど、カバンの中に入れてもらいます。こうしたものを紛失する患者さんが多いのですが、一度紛失すると出てきません。そして脱衣篭は隣の患者さんの手が届かないようにします。例えば、カーテンを挟んで両側にベッドがあれば、脱衣篭をカーテンと反対側に置きます。脱衣篭と脱衣篭を隣り合わせにしてはなりません。そして自分の持ち物は、傘などを除いて、すべて持って入ってもらうようにします。そうすれば紛失することはありません。患者さんが帰るときは、脱衣篭の中を点検します。首飾りや時計、財布、眼鏡、ライターなどが忘れてあったりしますが、あとになると、どの患者さんが忘れたものやら判らなくなります。また患者さんも、どこで落としたか判らなくなります。
 患者さんが服を脱いだり着たりするときは、当然ですがカーテンを閉めて外へ出ます。そして準備が済んだか声を掛けてからカーテンを開けます。声を掛けないで、これぐらいの時間がたったから大丈夫、などとカーテンを開けてはなりません。前に、女の人で全裸になった患者さんがいます。そのときは「服を脱ぐのですか?」と言われ、「ハイ」と答えただけでしたが、全裸で立たれてビックリしました。一般には、刺鍼する部分だけを露出してもらうわけですが、最低限でもパンツとブラぐらいは付けてもらいます。ですから露出する範囲を指定しておきます。服の上から刺鍼することは、古代の『素問』などに書かれていますが、消毒や危険防止のため絶対にしてはなりません。あれは風邪が入るのを防ぐために服を着て刺鍼したので、現在のように暖房のある部屋では、服の上から刺鍼してはなりません。
 女の患者さんの背中へ刺鍼するときは、こちらでブラジャーのホックを外します。そして終われば付け直します。着替えの時にカーテンの中にいてはなりません。終わった後はホックをかけてカーテンを閉め、患者さんが自分で着替えて出るようにします。
 刺鍼するときは、患者さんが楽な姿勢にすることはもちろんですが、治療者も食堂にあるような丸椅子に腰掛けます。そうすると前屈みにならないので腰をやられません。立って治療すると脊柱起立筋がやられます。回転椅子は身体が不安定になり、不適当です。患者の右側へ刺鍼するときは右側へ移動して座り、左側へ刺鍼するときは左側へ腰掛けます。弟子にも注意したのですが、右側へ座って反対側へ手を伸ばすようなことは、刺鍼ではやりません。丸椅子は、直径の大きいものが壊れにくいし安定します。

 治療は必ずベッドでやります。水戸黄門のように布団を敷いておくのは、前屈みになるので脊柱起立筋をやられます。ベッドは高めに、姿勢は低めが鍼の基本です。
 ベッドが高すぎる場合は、踏み台を用意します。冷え症の患者さんには、足に毛布などを掛けましょう。
 患者さんのなかには「自分の刺鍼姿を写真に取ってくれ」と頼む人もありますが、忙しくなければ応じたほうがよいでしょう。でも「写真をくれ」と言っても、いままで「いいですよ」という患者さんはいましたが、実際にくれた人はありません。それでホームページに写真が出せないでいるのです。こうした人は、女性やアメリカンに多いです。特にアメリカンは大喜びです。「写真撮っていいか?」というので、「ちょっと待て」と言って髪をなでつけ、「はいどうぞ!」というと、刺鍼された同僚の写真をパチパチ撮るではありませんか!私は人差指を向け「私!私!」と言っても、見向きもしませんでした。また同僚も、鍼だらけになりながらニッコリしてピースサインなど出している。まったく、こいつらには痛覚ちゅうもんがあるんかいな。

 次に必要なのは宣伝です。新米さんのなかには「師匠のところで技術を磨いたから開業して大丈夫」とか「留学してきて治療技術があるから大丈夫」と思う人もあるでしょうけれど、いくら技術が良くても、そのことを患者さんが知らなければ意味がありません。高度な治療技術でも、患者さんに知られるようになるまでに十年はかかります。少なくとも3年や半年はかかります。ところが鍼灸には広告制限があり、鍼灸院の場所、治療者、営業時間などしか広告できません。治療者が、どんな資格を持とうが、どこへ留学しただろうが、何の治療が得意なのか、一切広告できないのです。ですから折込広告などは、ほとんど無意味ですが、開業した当初は一度ぐらいしておきましょう。

 では何を使って広告するかです。まずハローページです。ここには小さくとも良いですから必ず地図入りの広告を入れます。なぜかというと、患者さんを紹介されました。しかし、どこにあるか判りません。患者さんがファックスを持っているとは限らないし、ファックスを持っていても操作できるとは限らないからです。どこにあるか判らず、電話で聞いても判らなければ行く気がしません。最初のうちは出張治療もしましょう。ギックリ腰の患者さんなどは動けません。しかし急性の病気なので、鍼なら一発で治ります。鍼を抜いたときには、痛みがなくなって動けますので、これほど宣伝効果のある病気はありません。患者さんも感謝して「ギックリ腰なら、あそこへ電話すれば一発だ!」と宣伝してくれます。逆に言えば、ギックリ腰も治せないようでは、開業しても先が思いやられるということです。これは一番劇的に治るので、病院では看護婦さんが患者さんを紹介してくれますし、病院の先生も同僚の医者を紹介してくれます。とにかくギックリ腰の出張治療は欠かせません。忙しくとも、必ず当日に行くようにします。最初なら他の予約を断っても出かけるべきです。

 次に名前ですが、短い名前にします。例えば池袋はブクロ、新宿はジュクというように短い名前は覚えやすいのです。これがジュゲムジュゲム、ジュゲムのポンポコリなど、長い名前など覚え切れません。「あなた、きのうどこへ行ってたの?」と聞かれたとき、「それはね、ジュゲムジュゲム、ジュゲムのポンポコリへ行ってたのだよ」とは答え辛いのです。ペキンドーは子音が3つで覚えやすいでしょ?子音3つにします。それから地域の名前は使えません。例えば、南京町だから南京鍼灸院にしようとか、松江だから松江治療院にしようなどは一般に許可されません。それは公共機関が営業している鍼灸院だと勘違いされる恐れがあるからです。これが銀行などとは違いますね。ただ南京さんが東京で南京鍼灸院を開業し、それが南京町へ移動したら許可されるかもしれません。ただ、それについては地方によって違い、町や地域の名前を付けても良い場合があります。東急ハンズ鍼灸院とか、任天堂鍼灸院とか、国際赤十字鍼灸院とかは、良い名前ですが許可されないでしょう。
 看板は大きなほうがいいです。小さいと、どこにあるか判りません。夜も営業するならば看板灯がよいです。それから移動式の看板は、どこに置いても構いません。

 次に宣伝です。宣伝として、都会ではインターネットのホームページが有効です。そしてハガキ、パンフレット。インターネットのホームページは、特定な人しかアクセスしないので、広告ではないとの判決が出ています。つまり何を載せてもよいのです。

 一般に鍼灸院のホームページは、料金や場所しか掲載されていません。あって院長の経歴ぐらいです。うちのホームページは、もともと患者さんがホームページを見るとは思っていなかったので、学生が勉強できるための目的で作りました。しかし、それが逆に都会からの患者さんを集めることになってしまいました。また「ホームページを見て来たい」という患者さんもありますし、アドレスを書いておいたら「ホームページを見て信用できるから来た」という患者さんもあります。逆に考えれば、ホームページは自分の勉強具合を知ってもらうための宣伝ページになります。患者さんは「これだけ勉強している人ならば、ぜひ診てもらいたい」という気持ちになるそうです。現在のホームページでは電話番号や料金、場所も掲載されていますが、もともとはホームページが患者さんを連れてくることを想定していなかったため、苦情があってから加えたものです。最初は電話番号も載せてなかったのです。
 どうやら患者さんは、料金だけを表示したホームページを掲載しても、あまり行く気にならないそうです。また治療方法が説明されているので、それも信頼できるそうです。
 言われてみれば、どんな治療をするか判らない治療所など、行く気がしないですよね。どういう理論に基づいて、どんな治療をするのかを、小学生にでも判るように解説してなければいけません。なぜなら患者さんはプロではなく、鍼灸に関しては小学生並の知識しか持ち合わせてないからです。自分の治療法を公開すると、人に真似されるんじゃないかと、無駄な心配をしてはなりません。あなたの治療法など、誰も真似しないのですから。北京堂も、あれほど詳しく胃下垂治療の鍼を掲載して、もう6年になりますが、未だに真似をする人が現れませんから。
 それからボランティア精神もいいそうです。あまり商売気を全面に出して、来てくださいなどと宣伝するのは逆効果のようです。

 建物外に料金を表示することは違反だそうです。
 これはおかしな話で、料金は外から見えるように表示するべきだと思いますが、法律では違反だそうです。だから患者さんは、鍼が使い回しなのか自分専用なのか、料金をいくらふんだくられるのか、どんな治療をするのか全く判りません。すると話を聞いて、人に紹介されたところしか行かないのも当然ですよね。たぶん第3者が「ここの鍼灸院は、こんな鍼灸院です」と紹介することは問題ないでしょう。消費者に情報を与えないという不思議な法律です。
 島根でも初診に三万円も取る鍼灸院があるそうです。会員制の鍼灸院らしいのですが。一般的には床屋の二割増しというのが基準らしいので、高額の鍼灸院へ知らずに入れば持ち合わせが足りません。
 ですから料金は室内に貼ります。階段は室内と見なされるようです。できることなら待合室をガラス張りにして待合室に料金を表示し、外から見えるようにするか、ドアを開けたら見えるようにします。そうして持ち合わせがなければ帰れる余裕を作っておきます。ホームページはアクセスしないと見れませんから、料金を表示しても構いません。

 うちのホームページには、小児鍼とか書いてありますが、これは一般人の悩みを少しでも解消しようとの目的です。そして五大疾患の治療法がありますが、これは学生諸君が、最低でも五大疾患が治せるようにとの目的です。そして古典が掲載してありますが、これは地方の鍼灸師でも、やる気さえあれば勉強できるようにとの目的です。
 こうした金儲け以外のボランティアは、患者さんの心を引きつけるようなので、できるかぎり有用なホームページを作ります。それが思わぬことに宣伝になります。うちなどは喘息の灸、夜泣き治療などで、ホームページを見た人から感謝メールが届きますが、そうした感謝メールを頂いた方は、近くに北京堂があれば絶対に紹介してくれるでしょう。だいたい料金や院長の経歴しか載ってないようなホームページ、誰もリンクしようとも見ようとも思わないでしょ?
 うちのホームページは、年に一万7千人の人が見るようです。その人達が、すべて治療にきたと考えただけでも、とてもじゃないが応じ切れないでしょう。

 次にパンフレットをパソコンで作ります。B5の紙で、表紙を作って、裏に地図を載せます。あまり薄い紙だと、裏に透き通って読みにくいのです。うちのパンフレットには、表紙、裏に地図と電話番号、治療できる疾患を書きます。そして中身に注意事項、鍼灸の知識、治療者の経歴や信念、灸のしかたや健康維持の方法を載せます。夜泣きの簡単な治し方、なぜ鍼が効くのかなどを書いても良いでしょう。パンフレットは、絶対に金をかけてはなりません。高い費用をかけて立派な物を作ると、患者さんは勿体無くて持ち帰り辛くなります。手づくりのパンフならば「こんなものなら持ち帰っても大丈夫だ!」と思って4~5冊持ち帰り、周囲に撒いてくれます。その内容は完全に広告違反ですが、患者さんが持って帰るので広告ではありません。また患者さんも知り合いに配ってくれるので、もらった人も冊子だから捨てないで保管してくれます。これが道で配っているチラシでは、受け取っても捨てられてしまうし、広告違反が見つかれば指導されます。知り合いの紹介ならパンフレットは捨てないし、その人の信用もあって来てくれるのです。だからパンフレットは、患者さんを捕まえるために絶対に必要となるのです。
 本を出版したり、雑誌に記事を書いていると患者が来ると思っている人が多いですが、全く効果がありません。一人だけ「先生の本が新聞の書評に出ていました」と言った患者さんがあっただけです。立派な本を置いておいても、患者さんは手に取らず、著者が治療していることすら知りません。本とか雑誌とか、堅苦しいものは患者さんが読まないのです。都会ならば、本を見て住所を尋ね「是非治療してください」などと言うこともあるでしょうが、一般の地方では、あまりありません。患者さんに「私の本を読んでみてください」というとパンフレットを取ります。ベストセラーを置いておくと、たまに借りて帰る人もありますが。
 実際「本を出しています」などと言えば、「何を偉そうに!」と、むしろ馬鹿にされることが多いのです。「私の本です」と紹介して、患者さんになってくれた人はいません。軽蔑したような目で見られるだけです。これを私の大ファンである母の友人が、妹を連れて紹介されたときに、これをやって軽蔑の目で見られました。本をあげると喜ぶのは、親戚とか友人ばかりです。それよりはむしろ薄くて読みやすい、手づくりのパンフレットのほうが、患者さんは遥かに喜ぶし、患者さんを紹介してくれます。それに待合室には週間現代やポストを置いていますが、患者さんは読まずにパンフレットばかり読みます。ベストセラーや健康雑誌を置いておいても、読まれるのはパンフレットばかり。それで「これ持って帰っていいですか?」とくる。持って帰ってもらうために置いているのに。
 ちなみに前に出店した下の店に配ったら、さっそく下の人がきました。そして「あれは面白かった。久しぶりに笑いました。早く第二集を出して下さい」
 パンフレットは最初に文章を書き、ページをつけてバラし、再び組上げるのです。だいたい1ページと最終ページがセットになります。そして中央を縦横にできるホッチキスで留めるのです。あまり厚くするとホッチキスが留まらないので、せいぜい40ページにします。ここから得た経験は、本を出したと自慢すると、軽蔑されるということです。患者さんは、手づくりパンフレットの方を求めていたのです。
 パンフレットには、鍼とはどういうものか、どうして効果があるのか、うちのQ&Aに記載されているような内容、どうして鍼灸師になったか、どんな苦労をしたか、自分がどんな理想を持っているかなどを書きます。ちょうどNHKのプロジェクトXのような内容にします。そして刺鍼したあとで起こるであろう反応や注意事項。こうしたパンフレットを読んで来院した人には説明が省けるし、宣伝効果もあります。しかし40頁以内としてホッチキスで留められる範囲に作ります。日本人は判官びいき、義経や秀吉、田中角栄のような人が好きなので、自己紹介は「一杯のカケソバ」のような感じに仕上げます。幼い頃から鍼灸のエキスパートとして育てられ、二代目を継いでいるなどという院長は、患者さんに人気がありません。うちに広島から来る患者さんも「初代は腕が良かったけれど、二代目になったらダメだからヤメタ」という人が多いのです。「ミジメな人間が、鍼灸を勉強して有名な鍼灸師になる」などのほうが受けるのです。

 次にはハガキです。患者さんを紹介してもらったら礼状を出します。新患さんにも効果のほどを尋ねるハガキを書きます。これはハガキ調査で、自分の治療における治癒率を評価する基準にもなります。初心者のうちは「治りました」という声を聞くと励みになります。そして年賀状や暑中見舞いは出します。もちろん、すべてに地図を入れます。ハガキはチラシを撒くよりも、はるかに宣伝効果があります。

 と、これまでは開業してからの宣伝でしたが、開業したときはどうするか?
 まず回数券を作ります。開業した当初は、患者さんがいないので、どうしても自分の力で連れてこなければなりません。例えば、親の知り合いに手紙を出して来院してもらうとか、友人に頼んで来てもらうしかありません。どんなに技術があっても、まったく知られていないので、本人だけが自信があってもしかたないのです。では、どうやって広めるかです。それは治療効果を味わってもらわねばなりません。
 なんでも最初は、無料お試し券があります。だから回数券をバラバラにして一枚ずつにし、鍼灸院の広告と一緒にホッチキスで留めるのです。そして自分の友人に、知り合いに配ってもらうよう頼むのです。すると友人たちは、自分の知り合いに撒くわけです。お試し無料券が付いているので、そのチラシを受け取っても捨てる人はいません。チラシを受け取った人は、鍼灸院へ恐々やって来るわけです。そして治療が終わると「あの、これでいいですか?」と患者さんは、回数券の一枚が付いたチラシを差し出します。そして「はい回数券ですね。よろしいですよ」と答えると、患者さんは安心します。それを聞いても「いくら払えば良いでしょうか?」などという患者さんもいるので「これは現金と一緒ですから」と答えます。ただ、鍼代だけはもらっておきましょう。すると、今まで一部始終を聞いていた患者さんも「回数券なんてあるのですか?」と聞いてきます。そして一冊の回数券が売れます。
 これを「無料券ですね?」とか「お試し券ですね?」などといえば、患者さんは「自分は金払って来ているのに、何で、あの患者は無料券をもらえるのだ!」と怒らせてしまいます。患者さんを差別してはなりません。一人だけ安くしたり、一人だけ順番を早くしてはなりません。ギックリ腰のような緊急な場合ならば「すみません、ギックリ腰なので、この患者さんを先にしてよろしいでしょうか?」と尋ねます。すると、その状態を見て、患者さんも「自分を先にしてくれ」とは言いませんから、こうした場合は別です。だけれども正当な理由がないのにエコヒイキすれば、患者さんは怒ってしまいます。患者さんを怒らせると恐いので、あくまでも無料券は、回数券を買った人が余ったので知り合いに分けたのだと思ってもらわねばなりません。ようするに差別されたと患者さんに思わせてはならないのです。この方法は開店したときしか使えません。「ギョウザの王将」が開店時だけ、チョー値引きサービスするのと同じです。無料券を年中繰り返しては、鍼灸院の評判を落とすことになります。

 こうして得た患者さんは、必ず一回で効果を上げなければなりません。お試し回数券は一枚限りですから。ここで治さねば、どんなに腕がよくても患者さん集めに苦労します。
 こうして集めた患者さんは、こちらの技術を体験してくれているわけですから、パンフレットを5~6冊持ち帰り、知り合いに配って宣伝してくれます。その内容は「私が治ったのだから、だまされたと思って行ってごらん」と言うようなものです。患者さんは一人に言われても信じませんが、周りの2~3人が「治った!治った!」というと、自分も行ってみようという気になるそうです。実際、私も開業した当初がもっとも苦労しました。現在では、重症患者は開業した当初に治してしまったこともあり、あまり重症な患者は来ません。楽な人ばかりで、張り合いがないくらい。開業した当初は、こんなに重病患者ばかり来て、いったい病院は何をしているのだと疑問が湧きました。敵陣で、自分一人が奮戦している感じでした。いったい、こんな患者さん、治るだろうかという不安の毎日でした。こうして「あの鍼灸院は治す」という評判を得たら、あとは来て頂いた患者さんにハガキを出して様子を聞いたりとか、紹介して頂いた患者さんに礼状を書きます。それと年賀状、暑中見舞いなどを出していれば、徐々に患者さんが増えて経営が安定します。

 だいたい師匠は治療技術のほかに、以上のことを教えてくれます。パンフレットの内容をそっくり盗作しても、師匠ならば黙認します。しかし本来ならば著作物ですから、裁判沙汰になってもおかしくありません。師匠と弟子は、治療方法が似ているので、パンフレットの内容をそっくり盗用できるメリットがあります。

 治療以外では、以上のようなことを師匠は教えてくれるわけです。腕だけで商売していると、噂になった時点で爆発的に患者さんが増えますが、それまでが大変です。
 まあ、このホームページを見た学生さんも「袖振り合えば多少の縁」、「有縁分」なので、開業方法を教えました。

 しかし重要なのは、治療技術と宣伝上手は、車の両輪だということです。ここの宣伝マニュアルだけ見て回数券を配っても、治療技術が悪ければ一回来ただけで終わりです。新患を紹介してはもらえないし、パンフレットを持ち帰ってももらえません。技術だけがよくても、それが知られるようになるには、かなりの年月が必要ですが、鍼灸は宣伝だけうまくとも、田舎ではやってゆけません。というのは田舎は、治ったか治らないかの口コミだけ、ほかの媒体は期待できないからです。

 鍼灸院を喩えていえば食堂のようなものです。
 いくら味が良くても、入りにくい食堂では流行るのに時間がかかります。そんな食堂は、よっぽど偶然が重ならなければ入ってくれません。そこで徐々に口コミで広まります。これは腕のよい鍼灸院に相当します。
 宣伝上手は入りやすい食堂です。見てくれがよいので、初めての客は入るのですが、食べてみると二度と行きません。リピーターがないのです。
 どちらが生き残るかというと、味だけでは開店当初は苦労しますが、そのうち経営が安定します。腕がなければ、最初から人が来ますが、儲けが伸びないので、そのうち潰れてしまいます。だから鍼灸院を開業する人は、最初から治療できる技術を身につけて開業すべきです。開業してから、患者を実験台にして治療技術を磨こうなどと考えてはなりません。そして最低でも、ギックリ腰を一発で治せる技術がなくてはなりません。ギックリ腰を一発で治せれば、後は患者のほうから一発鍼灸院として宣伝してもらえます。そのときには、鍼が痛いとか一切のマイナス情報が消え、ただ治るというプラス情報しか伝達されていません。マイナス情報も伝達されている場合も稀にありますが!
 なぜギックリ腰の治療に宣伝効果があるかと言えば、外から見えるからです。膝が痛い人も同じです。足や腰が悪ければ、歩くときも人に判るので、治れば必ず人が聞いてきます。どうして治ったかと。ところが五十肩やムチウチ、糖尿病などでは、まずそうした病気になっていることが判らないので、宣伝効果がないわけです。うちに来た患者さんで話をしているうちに、あの人は正座ができないはずなのに、法事で正座していたからおかしいと思っていた。ここで治ったのですね!と納得した患者さんもいます。このように立てるはずのない人が歩いているとか、正座できないはずの人が正座している、腰の伸びなかった人が正常に歩いているというのは、インパクトが強いので宣伝効果になります。うちも最初は下半身の治療しかできなかったのですが、それが宣伝効果になったのです。それは見ての宣伝効果なのでインパクトが強いわけです。今では上半身の五十肩なども治療できますが、それは治りましたと患者さんが言わなければ判らないので、ごく少数の困った人にしか宣伝効果がないのです。またギックリ腰の人は、歩き方で他人にも判るため「ギックリ腰なら北京堂へ行ったほうがいいよ!」と勧めてもらえます。

 最後に治療ですが、一般に鍼灸院は「痛くない鍼」を売りにしてます。「鍼は痛くないですよ」とか「鍼は細いから恐くないですよ」というのを売りにしています。
 これって差別化されてないですよね。すべての鍼灸院が「痛くない、恐くない」を売り物にしています。ラーメン屋でいえば、すべてのラーメン屋が日清の出前一丁を売っているような状態です。そこへ新たに出前一丁のラーメン屋ができて、客が来るでしょうか?
 そこへ激辛ラーメンが登場すれば、新たな客を開拓できるかもしれません。
 鍼灸院で言えば「痛いけど治る」なら特徴的ですよね。
 一般に、鍼灸は「痛くない。鍼を一本しか使わない。鍼を刺さない」という鍼が上手とされ、宣伝文句も「痛くない」とか「一本鍼」、「鍼を刺さない」とかになっています。専門家は「鍼を刺さない」鍼灸院が価値あると思うようで、実際に「鍼を刺さない」を売り物にしている鍼灸院もあります。
 そして中国式は「深く刺す」からと、馬鹿にする風潮があります。
 例えば「あれだけ深く刺せば、誰だって治せるよな!」などと言われます。
 深く鍼を入れることのできる人は、浅く入れることもできます。しかし浅くしか鍼を入れられない人が、深く入れると事故が起きます。死ぬ可能性もあるでしょう。だから師匠に着かない人は、絶対に深い鍼をしてはならないことは事実です。解剖も知らないのに深鍼をすれば、患者を殺してしまうことになるでしょう。だから1cm以内に留めるべきです。深い鍼は、マンツーマンで教わらなければ危険を伴います。漢代の名医であった淳于意も、人を殺して都へ送られたことがあります。文革以降の中国でも、しばしば事故が起きて死んでいます。そうした失敗をしなければ深鍼できないので、よっぽどでないかぎり独学では不可能でしょう。
 ところが患者さんは、鍼が痛いとか痛くないとかについては無頓着なのです。では何を重大に考えるかですが、意外なことに治るか治らないかなのです。患者さんは、自分が治れば行ってみろと勧めます。その言葉を尋ねたところ、痛い鍼とか痛くない鍼とかではなく、「とにかく治るから行け」ということでした。つまり鍼が痛いとか、痛くないとかの情報は、抜け落ちていることが多いのです。そうした情報があったとしても、自慢話として話されているだけなのです。例えば「オレは我慢強い男だから、あの鍼の痛さにも耐えられたが、女のあんたに果たして、あの痛みが耐えられるだろうか?」と言ったたぐいです。それを聞いた人は、いよいよ我慢ができなくなって来るのですが、感想は「この程度の痛みならば、もっと早く来れば良かった」というものです。だから鍼の痛さは、意外と専門家が気にするほど患者さんの間では話題になっていないのです。それより驚くべきことですが「鍼すると言ったのに、何の感覚もなく、全く変化もなかった。何かしてくれたのだろうか?」という苦情のほうが多いのです。

 最近は中国鍼が流行りですが、「痛くない。鍼を一本しか使わない。鍼を刺さない」の鍼灸院に対して、ズーンとした得気感がある中国式は独自性があると思います。
 こうした他鍼灸院との差別化を目指すことが、生き残る鍼灸院の条件でもあります。
いっぽう嫌われる鍼灸院は
 
 一番目に、複数人数でやっている鍼灸院。
 これは意外です。その理由は、自分の思っていた先生に治療してもらえないから。指名すると、指名料を取られるから行かないという患者さんもありました。大きなところは複数でやっているので、それが良いのかと思っていたら、鍼灸院って治療所に患者が付くものではなく、治療者に患者が付くものなのですね。だから患者さんは、他の人に身体を見られるのは嫌らしいのです。前に「鍼灸院は、治療者に患者がつくものではなく、鍼灸院に患者がつくのだな」と言っていた鍼灸師がいたので意外でした。そういった理由は、鍼灸師の腕が悪かったからです。腕がよければ、その先生に治療してもらいたいと思うようです。うちの弟子もキチンと鍼ができるようになったのですが、最後まで患者さんが嫌いました。

 二番目に、不衛生な鍼灸院。
 これも意外でした。もっとトップに来ると思っていたのに。患者さんは、あまり気にしてないようですね。しかし、うちで水道で手を洗ったりすると、患者さんは「何してますの!」と聞いてきます。鍼する前に手を洗っていますとか、抜く前に手を洗っていますと答えると「そうですか!」と来る。手にバイ菌が着いていたり、前の患者さんの血が着いているといけませんからと言うと、「あんたの言う通りだ。いままで気にしてなかったけど、言われてみれば危険だわなあ~。エイズもあるし!よし、こんどから、ここ以外へは行かないことにしよう」との返事です。だから患者をよそに行かせない効果はあるようです。でも、そうした話をするまで、患者さんは衛生に無頓着です。しかし、私の後輩の治療所や弟子の治療所でも、こうした会話で患者を獲得しているようです。水道は、保健所の基準では必要ないですが、貯め水で手を洗うのは、いかにも不潔です。また、鍼を扱うのに、水道で手を洗わない鍼灸院があるというと、「へぇ、そんなところがあるのですか。ここしか来ないので、そんなところがあるとは知らなかった」という患者さんもいます。

 恐らく三番目に、乱雑でキタナイ鍼灸院。
 これは、うちが本が散乱しているので、患者さんから苦情がないのです。本を見て「よう勉強されてますね」という患者さんはいるのですが、それは恐らく「おせじ」でしょう。恐らく、これが三番目に来るでしょう。

 四番目に、遠い鍼灸院。
 よく患者さんに言われます。近くにあればいいけれどと。
 
 ちなみに好かれる鍼灸院。なぜ北京堂へ来たかの理由ですが、もちろん患者さんのパンフとハガキによる紹介がトップなので除外します。

 一、電話をしたとき、一番親身になって応対してくれた。
 意外でした。応対には広い医学知識が必要です。うちは医学翻訳をしていましたが、最新の医学情報を集めることが目的でした。そうした西洋医学知識を使い、詳しく説明するのです。間違っても中医学の説明をしてはなりません。患者さんは、怪しげな鍼灸院だと警戒します。中医学の説明はせずに、現代医学の知識で説明しましょう。

 二、ホームページを見て、
 意外でした。ホームページを見て、信頼できると思った人が多いのです。こうした患者さんは、学校の先生、医者、歯医者、公務員などが多いです。また電話帳のアドレスを見て、ホームページから来た患者さんもあります。ホームページで患者がくるのが意外。

 三、電話帳の地図を見て
 意外でした。電話帳の地図が、これほど少ないとは! 年に4人程度。

 バス広告やチラシは、ほとんどが効果ないので止めました。しかし都会では効果があるかも。

 最後に、鍼灸師に向いていない人もあります。

 鍼灸に興味のない人:あまりいないと思いますが、なかには生活のためにとりあえずという人もいます。鍼灸技術を身につけるには、留学したり、何百冊も本を読んだり、古文を勉強したり、解剖を勉強せねばなりません。鍼灸の書籍は、中国の書籍が多いので、中国語と漢文は必須です。はっきり言って、中文で書かれた鍼灸本も読めないようでは、鍼灸師としての技術レベルアップも望めません。こうした方は、鍼灸の資格だけでなく、柔道整復師の資格を取り、そっちをメインにして鍼灸は余技でやられたほうがよいでしょう。
 鍼灸だけでなく、按摩やマッサージの資格を持っている人:いろいろやらねばならないので、どうしても「二兎追うものは一兎を得ず」となり、二つは無理です。やはり客の取りやすい按摩やマッサージをメインにしたほうがよいと思います。
 神秘主義者:鍼灸師のなかに、たまにいます。話が噛み合いません。こうした人は、鍼灸師仲間から総スカンを食いますし、攻撃の的になります。なにせ喋っていることが理解不能。神秘主義の人は、そうした人達で仲がよいかというと、やはり互いの主張が理解できないのでケンカしています。患者さんも当然にして理解できないので、特殊な人しか集まらなくなります。木下晴都の本でも読んで、鍼灸の客観化を目指してください。
 研究心のない人:効果がなくても、どうして効果がなかったのか考えない人です。技術が進歩しない。

 これは、とある鍼灸院にギックリ腰と腰痛の治し方を伝授し、見学した結果、感じたことを書いてみました。
 うちの弟子ならば、これぐらいのことは教えるのに、鍼灸院の営業方法も知らずに開業するのは、あまりにもひどいと思ったからです。
 以上のようなことは、法律では規定されていないかもしれませんが、鍼灸院を経営しているものには当然のことです。
 鍼灸師ならば営業の小手先のことで勝負せず、治療技術で勝負しましょう!

 このようなくだらないことを教えるとか教えないとか揉めているので、中国に負けてしまうのです。もっと自国の技術を育てましょう。自分は、教えた以上のことをやればよいではないでしょうか?

  最近では、患者が楽な姿勢で刺鍼することはもちろんですが、術者も楽で安定した姿勢で刺鍼することが重視されるようになってきました。
まず食道にあるような丸イスに腰掛けて治療することが安定します。右側にいて左側へ刺鍼することは、身体が不自然な前屈みになり、腰痛の原因となります。また立って腰を曲げているため安定しません。腰掛けて刺鍼します。

 刺鍼する順序ですが、重症な部分から刺鍼します。そして体幹から開始して、手足で終わります。危険ケ所があれば、危険ケ所は最後のほうに回します。腹と背中ならば、背中から刺鍼します。
 なぜ重症な部分から刺鍼するかというと、重症な部分は刺入したときの得気が強いので身体が動くことがあり、手足へ刺入した鍼が曲がる恐れがあるからです。それに重症な部分は、置鍼時間も長くせねばならず、重症部分を最後に刺鍼すると、手足に刺した鍼は曲がり、置鍼時間が長くなって患者が堪えられません。それで重症な部分から刺鍼します。一般に体幹へ刺鍼すると手足が動くことがありますが、手足へ刺鍼しても刺鍼している手足が動くだけですので、他の鍼が曲がる恐れはありません。だから体幹から刺鍼して手足へと移ってゆくのです。ただし手足しか刺鍼しない場合は、この限りではありません。風池などの危険部分を最後に回すのは、やはり他の部分へ刺鍼してビクッとしたとき、鍼を持っていれば瞬間的に引き上げることができるので最後に回します。
次に背中から刺鍼する理由ですが、背中へ刺鍼するためには俯伏せにならなければなりませんが、腹臥位の姿勢は辛いのです。それに比べて仰向けは楽で、休んでいるようなものです。鍼は抜鍼後に休憩したほうがよいのでいすが、仰向けを最後にすれば、抜鍼したあと休憩することになって効果がよいのです。

 次に抜鍼する順序ですが、本に「刺鍼した順序で抜鍼しろ」と書かれていたりします。しかし、やはり疑問があります。
抜鍼する順序は、やはり危険ケ所から抜鍼します。それというのも鍼が十分に緩んでいなかった場合、抜鍼しようと鍼に触れただけで、身体が反応して動いてしまう可能性があるからです。だから最も危険な部位を先に抜きます。そして手足を抜きます。最後に重症部分を抜きます。その理由は、重症部分を最初に刺鍼し、最後に抜鍼することで、置鍼時間を他の鍼より長くできるからです。それに重症な部分は、刺鍼するときも抜鍼するときも得気が強いので、他の鍼を刺入してから重症部分へ刺鍼すると、身体が反応して鍼が曲がってしまいます。また重症部分を最初に抜鍼すると、他の部分へ刺入した鍼が曲がってしまう恐れがあります。そこで最後に抜鍼します。

 刺入は
 腹臥位→仰臥位
 重症部分→体幹→危険部位→手足。
 抜鍼は
 危険部位→手足→体幹→重症部位。
 こうした順序になります。ここでの危険部位とは、肺とか脳、延髄などの近くです。そして重症部位とは、触ってみて相当に堅く、筋肉が強く神経を圧迫しているであろうと思われる部位のことです。

 これは余談ですが、北京堂は島根県で、まあ流行っていました。ところで弟子希望者が「先生、東京へ出てください」というので、東京に移転しました。あるていど「お試し券」とパンフレットを撒いてもらいましたが、開業初日の反応はまったくなし。自分の地元で開業したときは、知り合いに手紙を書いたり、生まれ育ったところなので、同級生も推薦してくれたのでしょう。最初から患者さんがきました。
 しかし知らない土地で開業したときは、北京堂のように地元では有名な鍼灸院でも、まったく患者さんが来ない。
 東京で鍼灸院を紹介してくれというメールに応えるという目的であり、北京堂はベッドからカーテンからオートクレーブから持っているし、古典を翻訳して売るという副業ができるので閉店しなくて良いのです。しかし一般的には、こうした状態が続けば閉鎖するしかないでしょう。だから開業するには、自分の育った地元が一番です。それから10kmとか30kmの距離ならば、患者さんが通える距離なので問題なく移せると思います。
 私も、両親にエラク反対されました。だから開業するときは、必ずホームグランドでやりましょう。

 開業してから一週間ぐらい経ちましたが、やはり胃下垂の患者さんぐらいしか来ません。ホームグラウンド以外で開業すると、予想はしていたものの全くダメですね。まあ三年ぐらいは、患者が来ないでしょう。地元島根では、かなり定評があり、ぎっくり腰やネチガイ、捻挫などは一発で治すという評判の北京堂も、見知らぬ土地では形無しです。まあ今までも、半年近く治療所を閉鎖して、中国へ留学に行っていたこともあるので、島根に帰れば患者がいると考えているから気楽です。
 まあ鍼灸学校を卒業し、金を借りて、家を借り、いきなり開業というのは無謀な話です。北京堂も自宅を改造して治療所を作りました。
 開業する王道は、やはり出張治療などから初めて患者を増やすか、または鍼灸院や整骨鍼灸院へ勤めて、そこから患者さんを引っ張ってくるべきでしょう。
 そして親や親類、自分の同級生に頼んで宣伝してもらい、パンフレットや名刺を渡して、客を引っ張ってきてもらうしかありません。
 私のように胃を引っ張り上げたり、前立腺へ刺鍼できたり、眼窩内刺鍼ができたり、頭鍼や項鍼ができるほどの技術があってもこれですから、そのような技術を持たない人が開業しても、おぼつかないでしょう。
 私のように本を出版して、社会的には知られている人間であっても、ここ沼袋では効果無し。もちろん島根でも同じですけど。しかし、都会ならば、もうちょっとインターネットで患者さんが引っ張ってこれると思ったな。前時代的な口コミが唯一の宣伝手段だなんて。もう少し都会では、インターネットが普及していると思ったけれど、鍼灸の患者さんには縁遠いものですね。
 まあ当初の予定は、中野の新井に住むオバさんを治療しに来たので、その目的が達せられれば、まぁエエワとしよう。
 一応北京堂は、ここ沼袋で三年ほど頑張ってみようと思っています。
 昨晩は、県人会から、五十肩の患者がやっと一人入ったきり。予約ではない。でもインターネットで金曜日の午後5時に患者が入った。そして9日。保健所へ届けを出して、今日は午前中に検査が来る予定だった。その電話かなと思ったら、患者さんの予約。五十肩。やっとまともな患者が入って嬉しかった。最近は大工仕事ばかりで、指先が痺れていたのだ。手の皮が厚くなったかも。カルテの置き場所や、オートクレーブの場所などを変えるように、ちょっと注意を受け、こちらが中国鍼と日本鍼の違いとか、実物を見せて説明したり、人間の段切り写真集を見せて説明したりしていた。結構楽しかった。島根の保健所では、窓の大きさを測ったり、いろいろとしていたが、ここでは見るだけで、メジャーを持って測ることもなかった。目で見て確認できればよいのだろう。
 聞いた話では、都会では待てど暮らせど保健所が来ないという話だが、そんなことはなかった。中野区だけで、鍼灸院や病院が300ぐらいあるという話だった。うちは鍼が買い上げ制なので、試験管キープに少々戸惑っていたみたい。島根では、うち以外にもやっているところがあるのに。
 まあ昨日は、オバさんは無料だが治療し、今日は吉祥寺からの五十肩患者さんを治療できて満足だった。鍼灸師は、有料だろうが無料だろうが、治療していないと充実感がない。生活が成り立つために金を取っているのであり、基本的には病気を治すことが大切だからだ。だから自分で開業したときは、お試し無料券を配って、タダでもいいから治療した方がよい。明日もインターネットからの予約が入っている。胃下垂患者の再診が入らないのは、もしかすると一度で治ったからかも知れない。引っ張り上げたときの感触が、まともに胃の蠕動運動がしていたので、一回で治るかなという感触が何となくしていた。まあ、胃下垂治療は好きな治療ではないので、来なくて幸い。本当は、五十肩とか坐骨神経痛とか、痛みの疾患が好きなのだ。胃下垂を治療しても、あまり感謝されないが、痛みで眠れないものを治すと、下にも置かないほど感謝してくれる。この気分の良さで、鍼灸師になったようなもの。麻原教祖の崇拝されたいという気持ちも分からぬではない。
 最近嬉しいのは、国内や海外から励ましのメールをもらうこと。それと、鍼灸大成の一巻が50になったこと。もっとも最初に自分で買ったのと、後で恩師に頼まれて送ろうとしたとき、一巻がパソコンから消えていて、自分で買ってしまったので、実際には48巻。自分のはタダで取ってこれるとは知らなかった。あとは、アマゾンコムで、なぜか私の『中医基礎理論』が売れ初めて、『経絡学』を抜いたこと。これまでの中医理論は判りにくかったので、特に翻訳に工夫を凝らした。やっと努力が認められたという感じ。そして北京堂の「痛い鍼、熱い灸」で、東京でも患者が来たこと。やっぱり鍼は痛くても、病気を治さなくっちゃあ。灸も熱くったって治さなくっちゃあ。沼袋までの通りに、○○○整骨鍼灸院というのがあるけど、そこが北京堂が出てきてから、急に看板をハデにした。しょうもないことに金使うなっちゅうの。保険鍼灸するところと北京堂では、しょせんは客層が違うのに。なんで対抗意識を燃やすんだろ。少し患者が着いたから、これからは痛い鍼の効果のほどを見せてやるぞ!って感じ。心にひっかかるのは、島根で私を信じている患者さん。これ考えるたびに、まいっちゃうな。神戸まで弟子を訪ねていったという患者さんもいるという話しだし。まあ、だけども都会。インターネットで患者が来る。しかし広島に出た松鶴堂、どうみても北京堂式治療を取り入れている感じ。まあ北京と上海の違いはあっても、同じ明治だからいいけど。


 開業して一週間。オバさんの撒いたパンフレットやら、県人会へ出した3万円ぐらいのハガキは、電話が一本あっただけで全く効果なし。だけどインターネットで、五十肩や腰痛患者が、一日に一人はやってくるようになった。でも、全体的には暇。有名人の私(と、本人は思いこんでいる)が、東京で生活していけるかどうか、どうなのでしょう? ところで、前に三寸鍼を買った「お客さん」からメールが来ました。ノーネームで。ノーネームでは、「ここへ来て登録してねっ」というメールと紛らわしい。当時は「鍼を買ったら、その結果を報告しろとのことですが、どうせ患者が来ないので、報告できません」とメールをくれた人。ちょっとアドバイスしました。そして北京堂も、患者の来ない鍼灸院になってしまいましたと返事しました。

 淺野先生。お久しぶりです、××です。
 「結局はインターネットが一番患者さんを呼んできてくれました」。参考になります。ホームページは作った方が良いようですね。
 「 東京で、痛い鍼、熱い灸が受け入れられるかどうか判りませんが、しばらくあがいてみます。まあ北京堂は、一年で島根へ帰る予定ですけど」。今まで、島根だとばかり思っていました。東京でしたか。
 「 3寸鍼を使えば、少なくともギックリ腰なら一発で治せるので、それから始めてみたら如何ですか?」。淺野先生、3寸鍼を使ってみました。椎間板ヘルニアを手術したが、やはり腰が痛いと言う方です。先生のホームページにあるようにやってみました。4回目までは相当効いたようです。5回目に大腰筋の手応えもなくなり、患者さんも響かなくなりました。手術が関係あるのか、完全に治るまでは行かず、疲れると痛くなるようで、月に2回ぐらい来院されております。以上、ご報告いたします。
 返事
 実は、こんどの十二月に、東京へ引っ越してきました。東京で、紹介できる鍼灸院を教えてくれといわれるのですが、東京のことは知らないので、いっそ北京堂に来てもらうことにしました。弟子を教えたら、引き継いで帰るつもりですが。
 県人会に葉書を送ったり、オバに「おためし券」つきのパンフレットを配ってもらったりしましたが、結局はホームページが毎日一人ずつ新患を紹介してくれます。私も、オバを無料で治療するだけでなく、ちゃんとした患者が来てくれるので、一日に一人か二人とはいえ、知らない土地で、これだけ患者が集まってくるのは、ホームページのおかげと思っています。これがなければ、成り立って行かなかったかも知れません。あとは電話帳ですが、それは特徴がないし、広告規制があるしで、大した効果がないでしょう。
 きのう来た患者さんが、さっそく別のところが悪くてやって来ました。こうして一人ずつでも完治させて行くことが、患者を呼ぶことになると思いますよ。
 島根では、ある程度有名でしたが、効果があることと、鍼が痛いことで有名でした。それでも三人ぐらいから「あそこへ行ったら治った」と聞かされると、来る気になるようです。
 たぶん、うちのホームページが患者を連れてくるのは、あまり商売っ気がないからだと思います。それから治療法が詳しく書いてあること。家庭でできる治療法が書いてあること。そうしたことだと思います。
 たとえば、鍼灸ではひっかからなくても、サッカーファンならば、サッカーに詳しいホームページを作れば、サッカーファンがホームページを見て、なんとなく近親感を持って「行ってみたい」と思うのではないでしょうか? うちは中国語をやっていますが、そんなもので集まる患者は少ないでしょう。どうせ田舎では、ホームページで集まる人は、タウンページより何倍か多い程度ですから(年に10人ぐらいでは?)。口コミが主になります。
 ホームページには、料金表示をキチンとしなければなりません。
 それと、どんな人が治療をしているか。偉そうな経歴を書いても、患者さんの共感を得られないことは、うちのホームページにも書きました。本を出しているというと、うちのパンフレットのことと思う人がほとんどでした。よく自費出版している人がいるので、そんなことを自慢しているのかと思われるのがオチです。自慢しいは悪いようです。どうして自分が鍼灸師になったか? 何か理想があると思います。苦労話を書くとか。
 鍼の消毒やらは、詳しく書いた方がよいです。学歴のある人は、鍼で、肝炎やエイズが染るのではないかと心配しています。
 自分の治療法も書いた方がよいと思います。どんな治療をされるか判らない鍼灸院など、行きたくもないですものね。書いても「経絡治療」など、意味が理解できないものはダメと思います。うちは、患者さんが難しい治療法公開のページを読んで共感し、「この治療法なら治りそうだ」と思って来るようです。
 あと地図も必要です。島根では、車で来る遠くの患者さんも想定し、半径20キロぐらいの地図を作りました。だから二つの地図があります。
 いまごろは広告を載せれば、無料でホームページを作るサイトもあるようですから、そうしたところで作るといいのでは? うちは広告が出ると面倒だと感じるので、広告掲載はしませんが。
 親しみを感じるホームページがよいのでは? 近所のオッチャンと喋っているようなホームページが、患者さんが来やすいと思います。
 でも、島根でもホームページの内容を40ページぐらいのパンフレットにして、患者さんに自由に持って帰ってもらっているので、うちのホームページの内容は、多くの人に知ってもらっています。患者さんは、一人が5~6冊もパンフレットを持って帰り、知り合いに配る人もあるので、パンフレットを見て来る患者さんが多かったですね。
 あと「知り合いに北京堂の年賀状をもらった」とか、「暑中見舞いをもらった」とか言って、持ってくる新患さんも多かったです。
 まぁ、結局は、治さないとダメですね。3人以上に治ったと聞かされると「痛くても行ってみよう」という気になるようです。
 これは余談ですが、北京堂が逃げて、島根の整形外科は安心していると思います。うちはマッサージをせず、肩こりの患者さんも、ほとんどいなかったので、周りの鍼灸院を圧迫していないと思います。
 愛用のワープロの電池が切れて、古文打ち込みは暇です。
 ヘルニア手術では、手術によって切れた部分が癒着するので、どうしても完治しないと思います。でも大腰筋の手応えがなくなったのでは、大腰筋は完治したのでしょうね。こんどは中臀筋や小臀筋へ刺鍼したり、腰椎下部の多裂筋など表面の筋肉を探ってみたら如何でしょう? 私の予想だと、中小臀筋が痙攣しているのではないかと思います。参考になりますか?
 という返事です。

                                著 北京堂 浅野周

                                     回